台湾には金馬獎(ゴールデン・ホース・アワード/GHA)という優れた映画作品を表彰する映画賞があります。台湾のアカデミー賞とも呼ばれており、受賞作品は日本を始めとするアジアや世界各国でも有名な作品ばかりです。
この記事では、今までの受賞作品やこれから台湾で注目されてる作品についてご紹介していきます。
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台湾のアカデミー賞「金馬獎」とは?
過去の有名な受賞作品
まずは、過去に台湾アカデミー賞の最優秀作品賞をとり、日本でも話題になった作品を紹介します。
《返校》
2019年に公開され、第56回金馬獎では12部門ノミネートされ、最優秀新人監督賞など5冠に輝きました[3]。
2017年に発売され、台湾だけでなく日本でも話題になったホラーゲーム「返校」の実写映画で、1960年代の台湾を舞台とした作品です。1947年に起きた二・二八事件から1987年に戒厳令が解除されるまでの白色テロ(白色革命)を描いており、ミステリーとホラーの二面をもっています。学校内で起きる物語が主軸となっているため、恋愛青春映画要素もあります。学園ものが好きで、ホラーが得意な人におすすめできる、かなり見応えのある作品です。
《消失的情人節》
《石門》
2023年に公開された作品で、第60回金馬獎では最優秀作品賞、最優秀編集賞の二冠を獲得しました。このほかにもベネチア国際映画祭やバンコク世界映画祭などにもノミネートされており、台湾だけではなく世界各国で話題となった作品です[6]。
監督は中国湖南省出身の黃驥と東京都出身の大塚竜治夫妻で、日本資本としての映画作品では初めての金馬獎受賞となりました。
この作品は望まぬ妊娠をしてしまった20歳で大学生のリンが、現代社会をどう生きていくのかという物語で、新型ウイルスの蔓延など私たちの実世界ともリンクすることが多く共感性の高い作品であると注目されています。
2025年には日本での公開も決定しています。
その他(台湾ニューシネマ)
1980~1990年代にかけて、商業的な映画製作から一線を画し、映像表現としての芸術性を追求した「台湾ニューシネマ」と称される時代の作品も、金馬奨の受賞作にはいくつか名を連ねています。
「台湾ニューシネマ」を代表する映画監督の一人であるエドワード・ヤン(楊徳昌)の『恐怖分子』は1986年の金馬奨最優秀作品賞を受賞しています。2023年に台北市立美術館で開催されたエドワード・ヤンの大回顧展では岩井俊二、濱口竜介といった国際的に高い評価を得ている日本人監督も映像を寄せており、日本で話題になりました。
2023年に引退を表明したことで話題となったホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督の『悲情城市』は、1989年の金馬奨最優秀監督賞受賞作です。それまで扱うことがタブー視されていた二・二八事件を初めて取り上げて空前のヒット作となりました。日本人にとってはスタジオジブリの世界を彷彿させるということで馴染み深い「九份」は、もともと『悲情城市』の舞台であることがきっかけで有名な観光地となりました。
国際的に大きな影響力を持つ「台湾ニューシネマ」の作品群は、Netflixなどのサブスクサービスでは観られる機会の少ないものばかりですが、日本では毎年「台湾巨匠傑作選」という「台湾ニューシネマ」の映画特集が全国の映画館で開催されています[7]。今見ても斬新な映像表現ばかりの傑作が揃っているので、機会があればぜひ鑑賞してみてください。
2024年に注目された受賞作品
次に、2024年11月に発表された今年の最優秀作品賞を紹介します。
《漂亮朋友》
第61回金馬獎で最優秀作品賞(第61屆金馬獎觀眾票選最佳影片獎)等8部門でノミネート、受賞をした作品です[8]。
受賞作品であるものの、2025年現在、台湾では未だ公開されていません。
台湾では「兩岸人民關係條例」という規定から中国大陸の作品は毎年10本までしか輸入、公開できず、それがどの作品になるのかは公平にくじ引きで決められています。
この作品はまだくじ引きで選ばれておらず、台湾国内でみることはできませんが、注目度が高い作品のひとつです。
男性二人がW主演しており、そのどちらもが本名を役名として出演していることでも話題を呼んでいます。
男性同士の同性愛を描いた純愛ラブストーリーで、それぞれのペアカップルや登場人物がどのように社会と向き合っていくのかが見ものです。
《從今以後》
第61回金馬獎で5部門ノミネート、うち四冠に輝いた作品で、香港で制作された映画です。台湾でも2024年に公開されました[9]。同性婚がアジアで唯一合法である台湾では同性愛がテーマの作品が多いのですが、女性同士の作品は少ないです。
そんな中、こちらは女性同士の恋愛を描いた作品で大変話題となりました。
家族で晩御飯を食べたり、買い物へ行ったり…そんな穏やかな毎日が続くのかと思っていたはずなのに…同性婚や家族との関わり方、現代社会についてなどただの恋愛映画ではなく、考えさせられる金馬獎作品です。
2024年に日台合作映画として公開されたこの映画は、今をときめく台湾人俳優・許光漢、演技派で日本と台湾どちらでも人気の清原果耶の二人をW主演に迎え制作されました。
日本と台湾の両国で撮影され、公開前から注目されていた本作は、第61回金馬獎にも四部門ノミネートされています[10]。
18歳で大学受験をひかえる台湾人の青年、ジミーが台湾へ「自分探しの旅」として旅行に来ていた日本人のアミと出会い、ひと夏の恋に落ちるところから物語は始まります。
夜の台湾の街をバイクで駆け巡り、丘の上で互いの夢を語り合ったり、日本人にも人気の高い観光地・十份でランタン飛ばしをしたり、映画デートに出かけたり…等青春が詰まった映画です。
劇中には日本語と中国語のどちらのセリフもあり、日本ではおなじみの俳優が多数出演しているため、中国語初心者でも見やすい作品です。
最後に
台湾華語を教科書の中だけで勉強するのではなく、台湾映画を観て学ぶことも大切です。
現地で話されている言葉や表現方法、細かいニュアンス、さらには々出てくる台湾語まで触れる機会があるからです。また、生活様式や台湾文化にも気軽に触れることができ、国際理解にも繋がります。
台湾映画を観て、台湾華語能力をさらに向上させましょう!
脚注
[1] 金馬奨ってどんな賞?《前編》歴史・応募規定・賞の種類・審査員など ↩
[2] 台北金馬影展 Taipei Golden Horse Film Festival ↩
[3] 《返校》入圍12項成大贏家 第56屆金馬完整名單出爐 ↩
[4] 金馬大贏家!奇幻喜劇《消失的情人節》 失去的怎麼找回來? ↩
[5] 日本リメイク版『一秒先の彼』 ↩
[6] 《石門》:宛如現代和社會性兼具的深刻寓言,展現一道女性面前艱困的牆 ↩
[7] 『台湾巨匠傑作選2024』公式サイト ↩
[8] 《漂亮朋友》金馬入圍8項大獎、聞天祥老師譽為「華語同志電影天花板」!中國導演耿軍最新力作 ↩
[9] 從今以後影評|揭香港社會「殘酷現實」由同婚講到居住環境問題 ↩
[10] 『青春18×2 君へと続く道』 ↩